フェアリーテイルを夢見てる
言葉通り、巧さんはその年まで実家から出た事がありませんでした。

その必要がなかったからです。

一般的に独り暮らしするきっかけになるのは大学進学、就職時だと思うのですが、学校も職場も実家からとても近い距離でしたので。

しかし、巧さんは自分が一生独身を貫き通すであろう事をすでに確信しており、早いうちから一人で生きていく術を身に付けておいた方が良いだろうと考えていたのです。

そんな折り、おじいさんである千一郎さんからその提案を聞き、絶好の機会だと思い、すかさず立候補したのでした。

もちろん、「一生独身云々」はあえて今から宣言する必要はありませんので、あくまでも社会勉強の為に、というような説明に留めておきましたが。

巧さんの主張を聞き、千一郎さんも他の親戚の方も「そのビルの下の階で働いていて、勤務後そこにパッと帰る事ができるし、確かに彼が住むのが一番妥当かもしれないな」とすぐさま理解を示して下さいました。

それから巧さんは独り暮らしする上での必要最低限の家事をおばあさんとお母さんとお手伝いさんに教わり、合格点をいただいてからここへと引っ越して来たのです。

そしてその数年後、私が同居を始め、現在に至るのでした。

つまり巧さんはこの部屋の美化整備を任された、管理人的立場な訳ですね。

現時点では彼にとってはあくまでも借り物の仮住まい。
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