栄光よ明日へ

4

私の頭の中を鉄の塊がドンドンと叩きまくる。うずくまって頭を抑えているのに、それは大きく確かに響く。うるさい、うるさい、うるさい。
「アン、いるの?返事して」
私は布団から出ると、素っ裸のまんま、その音を止ませる為に、扉を開けることにした。
「アン、どうしたの!?」
目の前にいたのは、シェリーだった。久しぶりに旧友にあった、そんな思いをした。
「悪いけど、今気分悪いんだ」
ひどく頭は痛むし、吐き気もする。それに全身が痛いし、やる気も食欲も出ない。
「ねぇ、凄く痩せてるし、死にそうよ。ちゃんとご飯食べてるの?電話しても出ないから心配で」
「大丈夫だよ」
シェリーの声すらも、不快に頭に響いてくる。私は扉をしめようとするけど、シェリーはそれを防いだ。
「心配なの。アン、最近変だよ」
シェリーは何だか、泣きそうな顔をしていた。私はそれを見ても無感情だった。
「ごめん、寒いからもう、帰って」
シェリーは、私の全身を見て、ある印に気づいて叫んだ。
「アン、その跡どうしたの!?」
それは、昨晩ジャン・ダンテにつけられた刻印だった。
「何でもない」
「誰につけられたの?やっぱり、変な人と関わってるんでしょ」
シェリーは、私の心臓部分の刻印に、触れようとした。私は、勝手に触れられようとしたことに、ついかっとなって、シェリーの体を思い切り押し退けた。
「勝手に触るな!」
シェリーは、口を開いて暫く私を見ていたが、やがて涙を流しながら、そこに立ち尽くした。私は、扉を閉めた。
「何で、私に関わってくるの」
私の頭の中はぐちゃぐちゃで、タンスの服が溢れ出てくるようで、整理がつかなくて、部屋の中を歩き回った。脳みその代わりに髪をぐしゃぐしゃにしながら、声にならない叫びを上げて泣いた。そして、洗面台の上のものや、机の上のものを乱暴に跳ね除けた。最後は感情が一つになって、座り込んだ。
「愛されて幸せなアンタに何がわかるんだ。私の幸せ、アンタに分かりっこない」
涙が止まらない。どうせ、シェリーは私がこうしてる今、部屋に帰ったら暖かい家庭に包まれて、気づかない幸せに包まれるんだ。ずっと、一生、シェリーは幸せだ。私がこうして悩んでる時も、孤独に街を歩いていても、すれ違う他人に睨まれても。シェリーが私と同じ事を受けたって、親に愛されていた記憶があれば、気にしないでいられる。でも、私は、何も無い。私にあるのは、愚かな程自己中な自分と、ジャン・ダンテだけ。私には、それしか愛を知らない。
私はやりきれなくなって、涙が萎んでいった。床に落ちたカミソリを取り、何度も何度も皮膚に注いだ。血が私の体から飛び降りていく。私は、ジャン・ダンテに殺されたいと思った。
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