栄光よ明日へ

深夜2時、もう人も車も見当たらない夜の月明かりの下、電気の消えた白い屋根の家の近くの茂みに身を隠す。シェリーの部屋の電気ももう付いてなかった。私は静かに窓へと近づいて、シェリーに気づかせるように叩く。ジャン・ダンテいわく、父親は捜査で家を留守にしているらしいから、居るのは母とシェリーの二人のはず。
大丈夫。上手くいく。私はジャン・ダンテとの幸せな未来を想像して、自分の鼓動を押さえつけた。計画では、シェリーをおびき寄せて、気絶させ、借りたバイクに乗せて指定の場所まで行く。簡単だ。
何度か窓を叩いたけど、シェリーは一向に起きなかった。だけど、私は重大なミスを犯してることに気がついた。私に向かって、犬のジョンが吠えてきたのだ。
私は必至に静かにするように、言ったけど、ジョンは絶えず吠え続ける。
「ごめん」
私はそう言うと、ジョンを思い切り靴先で蹴り付けた。すると、ジョンは弱々しく鳴きながら、地面に突っ伏した。
それから、異変に気づいたシェリーが窓を開けて、私の存在に気づいた。
「アン……?」
シェリーは、私の下に横たわるジョンの姿を見て、叫びを上げながら家へ急いで引っ込もうとしたが、私は素早く窓に身を乗り出し、シェリーの口と体を押さえた。
「何するの!離して!」
シェリーは力強く必至に抵抗した。私は、シェリーの右腕に銃が握られている事に気付くと、シェリーの頭を殴ってからスタンガンで気絶させた。シェリーの体は一気にぐったりして、腕の中に崩れ落ちた。私は、すぐにシェリーを運ぼうとしたが、「あなた、何してるの?」と、後ろから声をかけられた。振り返ると、シェリーの母親が眉を寄せながら私を見つめていた。手の中にぐったりとした娘がいることに気付いた母親は、「シェリー!」と叫んだ。私は、よく世話になっていたシェリーの母親に銃を向けた。
「騒ぐな」
「娘をどうするつもり?どうかお願い命だけは助けて」
母親は明らかに狼狽えて、涙声で私に懇願した。私は、シェリーの頭に銃を向けた。
「殺されたくなかったら、言うとおりにしな」
「何で、うちの子が?ねぇ、お金ならたくさんあげるから、シェリーを返して」
「金なんかいらないよ」
「じゃあ、何が欲しいの?……あなた、アン?ねぇ
シェリーのお友達のアンでしょ?」
母親はようやく、今になって私の正体に気づいたらしい。
「どうしてこんな事するの?誰かに頼まれてやったんでしょ。そんなもの降ろして」
母親は、私を説得しようと声をかける。だけど、私は銃を下ろさない。
「もしかして、最近シェリーが言ってた、怪しい連中に頼まれたの?」
母親が言った。やっぱり、シェリーが父親にジャン・ダンテの事をちくったんだ。
「どうしたらいいの。お願い、シェリーは大切な娘なの」
シェリーの母親は泣きながら、私に向かって跪いた。
私は母親に銃を向ける。「お願いです。神様」と、母親は祈りながら呟いた。銃声が空に向かって響いた。私は逃げるようにシェリーの家を去っていった。
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