栄光よ明日へ

どこだか分からずに、とりあえず走っていった。ぶつかった人の暴言も、クラクションの音も気にせずに、走った。長く続く土手の下に、狭い道路と川が見える。私は、土手の斜面に座り込んだ。
全て失った。これが、私の望んだ人生の結末。警察は私を捕まえに来るだろう。そうしたら、永遠に、ジャン・ダンテには会えない。
通り過ぎる車に中指を立てた。向こうはこっちの事なんて見ようともしない。人生はそんなもの。 私は、銃を自分のこめかみに当てた。自殺しよう。もう、うんざりなんだ。栄光なんてものは、与えられた者にしか見えないんだ。私には、もう、明日もない。私は、ジャン・ダンテとの約束を思い出し、ジャケットとTシャツを脱いで自分の心臓部分にある印を眺めた。それで、私はこめかみに当てていた銃を心臓に当てなおした。
「会いに行くよ、ジャン・ダンテ」
私は、本物のブルックボーイズのジャン・ダンテに向けて言ったはずだった。だけど、私が思っていたのは、あのNo.69で出会ったジャン・ダンテの方だった。トリガーの指先は震えている。そろそろ天国へ行こう。私は瞼を閉じて、ゆっくり指に圧をかけた。

グッデイ 心配ごとなんてなくしちまおう
みんな明日をしんじてる
栄光は明日へ
それは確かに 君は奇跡の一人だから

私の耳に、ジャン・ダンテの歌声が聞こえた。それは人生で初めて死んで、生き返った時と同じだった。瞼を開くと、目の前には神様が笑って立っていた。
「お前を殺す権利は俺にあるって言っただろ?」
「何で?ここが分かったの?」
彼は、私の手を握って川を繋ぐ橋の上まで走った。
「ブルックボーイズの名のもとに」
彼は遠くを指さした。そこには、白黒の看板に、ブルックボーイズのジャン・ダンテが、栄光をものにした時の笑顔のまま、写っていた。
「ジャン・ダンテはずっと栄光を明日へ繋いでいたんだ」
私は笑みがこぼれた。現実にいるジャン・ダンテは、私の手から拳銃を抜き取り、私の心臓部分の印に口付けをした。そして、ゆっくりとトリガーに圧をかけた。
「アン、栄光よ明日へ」
と、ジャン・ダンテは言った。
ブルックボーイズが、私に栄光を与えてくれたように、このジャン・ダンテも私に栄光を与えてくれるだろう。私は栄光よ明日へを口ずさんだ。最初のドラムが鳴り響く。その時、私は確かに愛を感じたのだ。



end
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