栄光よ明日へ

ジャン・ダンテと出会って、一ヶ月が過ぎた。だけど、最後にNo.69で飲んだ時から、ジャン・ダンテと連絡は繋がらなかった。私は、不安で何も手もつかず、部屋に引きこもったり、時々あの肥溜めで薬やったりした。けど、どれも効かなかった。ジャン・ダンテの居所を片っ端から聞いたけど、誰も知らないと答えた。「あいつは悪いことばっかやってるから、今頃どっかで野垂れ死んでるかもな」と、誰かは笑っていた。もしそうだったら、私も死ぬ準備をしなくちゃならない。だって、この心臓の証が示す通り、私はジャン・ダンテと共にあるのだから。
けれど、私の心配を他所に、彼からの連絡は唐突にやってきた。夜、私が酒場の界隈をうろついている時だった。
「アンか?勝手にいなくなって悪い。大きな仕事があってな。それを片付けたんだ」
電話越しの彼の声は息切れをしていて、何かに追われているようだった。
「ジャン、どうしたの?大丈夫?」
「問題ない。少し、撃たれたが平気だ」
と、ジャンは言う。
「平気って本当に?今どこ?」
「言えない。とにかく、俺は騙されてたんだよこんちくしょう!」
ジャンは珍しく声を荒らげた。それから直ぐに、冷静さを取り戻した口調で言った。
「ああ、すまない。そっちで待っててくれ。それから、お前の友達で警察と仲良い奴いたか?」
私は、直ぐにシェリーの事を思い浮かべた。私が答える前に、ジャンは察したらしく、言った。
「お前の恋人だな?そいつが、サツにチクリやがった」
「そんな、シェリーが?そんなことしないよ」
「信じるのか?もう恋人じゃないだろう」
「だけど、そんな……わからないじゃない」
「いいか、そいつを誘拐して監禁しろ。そして、俺の取り引きに応じるようにサツに言う」
「何言ってるの!?シェリーを誘拐?」
私はつい声を上げてしまった。周りを確認しても、人の気配はなかった。ジャン・ダンテは余程切羽詰まっているのか、気にせずに続ける。
「それしか方法はないんだ。俺が捕まってもいいのか?」
「それは嫌だよ」
「じゃあ、俺の言う事を聞け。お前は俺のものだよな?」
私は、自分の心臓部分を手でなぞった。そう、確かに、私はジャン・ダンテのものだった。ジャン・ダンテと共に生きるって誓った。
「わかった。深夜にやる」
「それでいい。それからこの電話番号はもう使えなくなる。だから、次の番号を教えとく。メモは残すな」
ジャン・ダンテは口頭で番号を伝えた。私は頭できちんとその番号を繰り返し唱えた。
「失敗したら、俺達は殺される。奴らも正義を気取った殺人犯さ」
「ジャン、もう会えないの?」
私は、消えそうな声で聞いた。だけど、ジャン・ダンテははっきりと言った。
「会えるさ。ブルックボーイズのもとに」
私はそれを聞いて、安心すると、シェリーの家の方に向けて足を運んだ。
「じゃあ、また」
そして、ジャン・ダンテは電話を切る前に「栄光よ明日へ」と呟いた。
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