クールな次期社長の甘い密約


――午後七時


母親と合流した私と専務と倉田さんは、都内の高級ステーキハウスに来ていた。


借金の件が無事解決して嬉しかったのだろう。母親は異様にテンションが高く、席に着くなり専務にあれこれ質問を始める。


「それで、どちらが先に好きになったの?」

「それは多分、自分の方だと思います。イメチェンした茉耶さんを見てドキッとしましたからね」


専務が気を使ってくれてるのは見え見えなのに、真に受けた母親は超ご機嫌で、A5ランクのブランド牛をパクついていた。が、しかし、突然顔を上げ、妙に改まって専務に深々と頭を下げる。


「私ったら、興奮して大事な事を言い忘れていたわ」

「大事な事ですか?」

「ええ、この度は、私達家族の為に本当に有難う御座いました。さすが津島物産の専務! 太っ腹だわ~」


なんの事が分からない専務はフォークとナイフを持ったままキョトンとしていたが、私と倉田さんは目を合わせ絶句。


まさか……お母さん、二千万の話しをここでするつもり?


この時、私は初めて気付いたんだ。二千万を貸してくれるのは誰か……それを母親に言ってない事を――


私の周りで二千万もの大金を貸してくれるのは、専務しか居ない。きっと母親は、そう思ったんだ。


慌てて話題を変えようとしたが、専務が「太っ腹とはどういう事ですか?」って聞くから更にテンションが上がった母親が調子に乗って話し出す。


「いくら茉耶の彼氏だって言っても、結婚が決まったワケじゃないのに、ウチの借金を立て替えて払ってくれるなんて……普通の人には出来ない事でしょ?」

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