クールな次期社長の甘い密約
あぁ……言ってしまった。こんな事なら食事会の前にちゃんと説明しておくんだった。
しかし、今更後悔しても後の祭り。一段と冗舌になった母親が借金に至るまでの経緯をベラベラ喋り始め、別に言わなくてもいい私のお見合いの事まで話し出した。
「茉耶には立派な彼氏が居るんだから、お見合いはしなくていいって言ったんですよ。でもまさか、貴志君が二千万もの大金を貸してくれるなんて……
でもね、今だからぶっちゃけるけど、茉耶が津島物産の専務とお付き合いしてるって聞いた時、もしかしたら貴志君が力になってくれるんじゃないかって期待してたのよ」
お母さんったら、専務になんて失礼な事言うのよ~。
「ちょっとお母さん、そんな図々しい事考えてたの? 私にはしおらしい顔で覚悟を決めるなんて言ってたから、てっきり、一家心中するつもりなんだと思って心配してたのに……」
真剣に家族の身を案じていたのに、母親は私の必死の思いを笑い飛ばす。
「一家心中~? 茉耶ったらバッカじゃないの? 借金なんかで、どうして死ななきゃいけないのよ? 覚悟を決めるって言ったのは、いざとなったら家も田畑も手放して、また一から出直すって事よ」
「へっ? そういう事だったの……」
私が思っていた以上に、ウチの家族はポジティブだった。
"覚悟を決める"の意味が分かって安堵したが、悪びれる様子もなくケラケラ笑う母親に苛立ちを覚える。それと同時に、何も知らない専務がどんな態度を取るかヒヤヒヤだった。
「でも、現に貴志君が助けてくれたじゃない。茉耶は、こんな男気のある人に好かれて幸せ者ね」