クールな次期社長の甘い密約

「どうして受け取らなかったのですか?」

「奥方はプライドの高い女性でな、自分は施しを受けるほど落ちぶれてはいないとおっしゃっていた」


それでも会長はひいおばあさんの所に通い、自分に出来る事はないかとしつこく迫った。すると、ひいおばあさんは言ったそうだ。


もし自分が死んだ後、子供や孫が困る様な事があったら助けてやってくれと……


「その言葉を最後に、奥方とご子息はワシの前から姿を消したんじゃ……まだなんの恩返しもしておらんかったから必死で行方を探したが、戦後の混乱で見つからず、ようやく捜し当てた時には奥方は亡くなられていてな」


そして、既に成人し、結婚していたひいおばあさんの息子、つまり、私のおじいさんは訪ねてきた会長にこう言ったそうだ。


貴方のお気持ちは充分伝わっております。亡くなった母も感謝しておりました。ですからもう自分達の事は忘れて下さいと……


結局、会長は何も出来ず後悔は残ったまま。


「じゃからワシはご子息に、もし、何か困った事があったら真っ先にワシを頼ってくれと伝えて別れた。それからご子息からはなんの音沙汰もなくお元気なのかと案じておったんじゃが……

今から三十年ほど前になるか……そのご子息が亡くなられたと連絡があり、慌てて通夜に駆け付けたんじゃが、そこでワシは衝撃を受けた」


会長が衝撃を受けた訳、それは、親族席に座っていたセーラー服姿の女の子を見たから。


「その娘さんは、大原小隊長の奥方に生き写しでな。ワシはその娘さんの事が気になり、通夜が終わった後に声を掛けてみたら、亡くなられたご子息の娘さんだと分かったんじゃ」

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