クールな次期社長の甘い密約
一瞬、何が起こったか分からなかった。だが、それが手りゅう弾だと気付いた時には、周りに居た部隊の仲間は無残な姿で倒れ息絶えていた。でも、会長だけはかすり傷一つ負っていなかったそうだ。
その理由は――……
「ワシの体を庇う様に覆い被さっていたのが、大原小隊長だったんじゃよ」
「あぁ……では、その時、私のひいおじいさんは……」
「うむ、大原小隊長は虫の息でワシに言った。必ず生きて日本に帰れと……そして真っ赤に染まった手に握り締めていた写真をワシに手渡し、息絶えたんじゃ。
その写真に写っていたのは、小隊長の奥方とご子息だった……」
一度も会った事もない顔も知らないひいおじいさんだけど、遠い異国でさぞ無念だったろうと思うと胸が張り裂けそうになる。
その後、すぐに終戦を迎え日本に帰国した会長は、自宅に帰るより先にひいおじいさんの家を訪ねた。
会長が話すひいおじいさんの最後を神妙な顔で聞いていたひいおばあさんは、話しを聞き終えると深く頭を下げ、会長を責める事無く生還した事を喜んでくれたそうだ。
「ワシは奥方に恨まれて当然の人間。しかし奥方は恨み事一つ言わず、実に立派な女性じゃったよ。さすが、大原小隊長の奥方じゃ」
それから会長は家業の事業を継ぎ、必死で働いた。そして少しでもひいおばあさんの力になれればと金銭面で支援しようとしたが、ひいおばあさんは決してお金を受け取ろうとはしなかった。
「その日の食べるモノにも困っていたはずなのに、頑なに拒否されてな……」