クールな次期社長の甘い密約
けれど、反対に聞き返された。
「そんな事、出来るのですか?」
「あ……」
そう、私にはそんな事出来ない。専務との結婚を破談にすれば、結納金は倍返し。畑が被害を受けて大変な時にそんな大金払えないもの。
私達は一夜限りの恋人……嵐の間だけの恋人だったんだ……
「すみません、冗談ですから……」
倉田さんの胸から離れると湿った生温い風が私達の間をすり抜けていった。
――それから三日後、私と倉田さんは東京に帰り、またいつもの日常が戻ってきた。
「ねぇ、専務と大沢さんの実家に行ったんでしょ? 結婚の日取りは決まったの?」
大森先輩は仕事そっちのけで根掘り葉掘り聞いてくる。もちろん、倉田さんとの事は言えないから笑顔で答えていたけど、先輩の質問攻めに段々苦しくなってきた。
堪らずトイレに逃げようと立ち上がった時、カウンターに一風変わったお客様がやって来たんだ。
そのお客様は、私でも知ってる有名な女性ファッション誌の記者で、専務に取材だと言う。確認してみたら確かにアポは取ってある。
なんの取材だろうと思いつつ専務室に案内し、応対に出た役員受付の木村さんに事情を説明していたら、専務が顔を覗かせ記者を笑顔で迎え入れた。
「あ、丁度良かった。大沢君も中に入って」
「えっ? 私もですか?」
「あぁ、君も一緒に取材を受けてくれ」
「しゅ、取材? でも、私は仕事中ですし……」
取材なんてとんでもないと思ったが、専務命令だと言われたら従うしかない。記者の人達の後に続き、渋々専務室に入る。