クールな次期社長の甘い密約
専務室には当然倉田さんが居て、彼と目が合った瞬間、体が熱を帯び胸が苦しくなる。でも倉田さんは表情一つ変えず平然としていた。
そんな彼を見ているとあの夜の出来事が全て夢だったような気がして、すぐそこに居る倉田さんがとても遠くに感じられた。
実際、縁側での一件以来、倉田さんは私に触れようとはせず、帰りの車の中でも甘い言葉を囁くなんて事は一切なかった。
倉田さんはもう吹っ切れたんだよね。私も早く気持ちを切り切り替えなきゃ……でも、私は専務を裏切ってしまったんだ。その事は忘れてはいけない。
知らなかったとは言え、専務の実の兄と関係を持ってしまったんだもの。これは、変えようのない事実。そして、絶対に知られてはいけない秘密。
……けれど、もし倉田さんとの関係を専務が知ったら、どうなるだろう。
きっと怒るよね。そしてその怒りの矛先は私だけじゃなく、倉田さんにも向けられる。そうなれば、倉田さんはこの会社に居られなくなるかも……そんな事になったら私の責任だ。
後悔しない為だと自分を正当化し、倉田さんに抱かれるという決断をしたけど、今それが正しかったのかと聞かれれば、自信がない。
ただ、分かっているのは、倉田さんの温もりをこの肌で感じていた時が、今まで生きてきた中で一番幸せな瞬間だったという事だけ。
専務に申し訳ないという気持ちと、それでも倉田さんが好きだという気持ちが入り混じり、どうにかなりそうだった。
そんな私の気持ちなど知る由もない専務が記者の質問に笑顔で答えている。