クールな次期社長の甘い密約

「あ……」


木村さんの言葉に素直に頷く事が出来ない。だって私は、愛のない結婚をしようとしているんだもの……


「私がこんな事言うのはおかしいかもしれないけど、女性を幸せに出来るのは、専務より倉田課長の方だと思う。倉田課長は一見、不愛想で冷たく見えるけど、とても優しい人よ」


私もそう思う。倉田さんは優しい人。優し過ぎる人……だからいつも辛い思いをするんだよね。


「私は好きになる人を間違えていたのかもね。その事にもっと早く気付いていたら、私の人生変わっていたかもしれないわ」

「えっ、それって、まさか……」

「あんなに専務が好きだって騒いでたのに、笑えるでしょ? 最近になって気付いたの。倉田課長の事ばかり考えてるなって。でもね、遅かったのよ。倉田課長には既に心に決めた女性が居る……」


木村さんの子供を認知するって話しになった時、木村さんは倉田さんに、一生結婚しないと言った理由を聞いたそうだ。


「倉田課長言ったわ。自分が愛した女性(ひと)は、他の男性と結婚しますからって。自分はその女性が幸せになれるよう見守る事に決めたから結婚はしないって」


倉田さんがそんな事を……常務が言ってた事は本当だったんだ。


倉田さんの本当の気持ちが分かって嬉しかったけど、どうする事も出来ない現実に言葉より先に涙が零れた――


けれど、その涙を木村さんに見られるのがイヤで、慌てて立ち上がり、頭を下げて全力で走り出す。


今すぐ倉田さんに会いたい。あの広い胸に飛び込み力一杯、彼を抱き締めたい。


ねぇ、倉田さん、あなたは今どこにるの? 

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