クールな次期社長の甘い密約
「えぇ~そんな風に誤解されたまま結婚式を挙げるなんてイヤです」
そうだよ。私は世界一幸せな花嫁なのに、誰にも負けないくらい幸せなのに。
「結婚しようと思っている相手の名前も知らないのですから誤解されても仕方ありませんよ」
あ、そうだった。倉田さんの名前を聞きそびれいていた。
「それで、倉田さんの下の名前はなんていうのですか?」
「さぁ~なんでしょうねぇ~?」
倉田さんったら、完全に面白がってる。
私の追及をのらりくらりとかわし歩き出した倉田さんに纏わり付き、名前を教えてと連呼していたら、ようやく倉田さんが足を止めた。
「仕方ありませんねぇ」
そう呟き、ニヤリと笑った倉田さんが教えてくれた名前は――
「権之介(ごんのすけ)です」
「ごごご、ごんのすけ?」
まさか、そんなヘビーな名前だったとは……
固まる私を見て倉田さんがお腹を抱えて大笑いしている。
「嘘ですよ」
「えっ? 嘘って……酷い! 本当の名前教えて下さいよ~」
「イヤです」
――というワケで、私は、新郎に逃げられた可哀想な悲劇の花嫁として、名前も知らない不愛想でイジワルな人の妻になった。
名前を教えてくれなかった事を根に持った私は、倉田さんの本名を知った後も仕返しのつもりで彼の事を"権之介さん"と呼んでいる。
それは、ベットの上でも変わらない。
*
*
*
「……権之助……さぁん」
「あの~……セックスの最中に、権之助さんと呼ばれると萎えてしまいます。お願いですから、そろそろ本当の名前で呼んでくれませんか?」
困った顔をしている彼が堪らなく愛おしい。だから――……
「絶対に……イヤです」
**** Fin ****


