クールな次期社長の甘い密約

出発前に私のマンションの住所を倉田さんに伝えたのに、なんだか方向が違う様な気がする。初めは東京の地理に疎い私の思い違いなのかと思ったが、やっぱりなんか変だ。


勇気を出して倉田さんに訊ねてみると、私に行って欲しい所があると言う。


「専務から、大沢さんの私服がみすぼらしいので、何着か購入してプレゼントするようにと指示がありました。なので、今から専務指定のセレクトショップに行ってもらいます」

「えっ、そんな話し聞いてませんが……」

「聞いてないのは当然です。言ってませんから」


なんだか言い方に棘がある。もしかしてさっきの仕返し? 倉田さんって根に持つタイプなんだ。


彼の性格を冷静に分析していたら、バックミラー越しに視線を感じる。


「おや、今回は断らないのですね」

「ここで断っても問答無用で連れて行かれるんですよね。もう諦めました」

「ほーっ、大沢さんは随分、学習能力が高い。お利巧さんですね」


褒めてもらっているんだろうけど、嫌味っぽくて全然嬉しくない。


完全に開き直り、大人しく窓の外を眺めているとお店も何もない所で車が停車した。


「ショップの開店時間まで、まだ三十分ほどあります。なので、少し寄り道させて頂きます」


倉田さんが私の返事も聞かず車を降りて向かった先は、お寺。車の窓に張り付いて倉田さんの姿を目で追うが、すぐに見えなくなってしまった。


そして待つ事二十分。倉田さんはなかなか戻って来ない。お寺なんかで何してるんだろう。その疑問が私に車のドアを開けさせた。

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