クールな次期社長の甘い密約

「ご馳走様でした」


笑顔で手を合わせ、目の前の倉田さんにお礼を言おうとした時、私は見てはいけないモノを見てしまった様な気がしてゴクリと生唾を飲み込んだ。だって、いつも無表情の倉田さんがニッコリ笑っていたんだもの。


倉田さんの笑顔……初めて見た。


私は知らず知らずの内に、この人は何があっても絶対に笑わない人だと決めつけていたのかもしれない。だから、ほんの少し笑顔になっただけで動揺しまい心がザワついたんだ。これも麗美さんが言っていたギャップ効果なのかな?


「倉田さん、笑う事あるんですね」


つい本音がポロリと口を付いて出てしまい、笑顔だった倉田さんの眉が一瞬にして吊り上がる。


「私をバカにしているのですか?」

「い、いえ、バカにしたつもりじゃ……倉田さんの笑顔がとてもチャーミングで魅力的だったから……」


慌てて弁解すると、今度は彼の顔が茹ダコみたいに真っ赤になり、視線が宙を泳ぐ。こんなに人間らしい倉田さんを見るのも初めてだ。


「な、大人をからかうものじゃない。もう出るので、帰る用意をして下さい」


声を荒げた倉田さんが横を向き、ダイニングテーブルに肘を付いて手で顔を隠している。


倉田さん照れてるんだ……可愛い。でもそれを言葉にしたら、またバカにしてるって勘違いされて怒鳴られるんだろうな。いや、怒鳴られるだけで済まないかもしれない。だから言葉を呑み込み急いで立ち上がる。


すっかり落ちてしまったお化粧を手早く直し、身支度を整えるとマンションを出て一階にある駐車場に向かった。

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