秘密の交換をしよう


千秋さんはそう言い捨てて、屋上を出て行った。


俺はしばらく、そこを動くことが出来なかった。



信頼出来る人に捨てられると、これだけショックなんだと知った。




あのマンションを出て、寮暮らしになってから、俺は本格的に演技をするようになった。


誰にも気付かれないように。



いつからか、自分も他人も信じられないようになって。


でも、顔には出さなかった。



いや、出なかったのほうが正しいのかもしれない。



高校生活も、大学生活もいい思い出なんかない。


でも、俺の過去を知る人間はいなかったから、そのへんは気が楽だった。



女は常に俺に媚び売ってきて。


そのたびうんざりしてたし、女が嫌いになっていった。



大学四年のとき、楪姫鈴というお嬢様に出会った。


彼女のおかげで、俺に近寄ってくる女は一気に減った。


正直鬱陶しかったけど、助かってたのかもしれない。



それでも、卒業してからも付きまとわれるのはごめんだったから、卒業と同時に海外に行くことを決めた。


彼女は嫌がって、俺を止めようとした。

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