secret justice
第20話

 午後三時、自室の机で真と晶は調査資料と今まで調べてきたメモ帳などを広げて事件の推理をする。タイミング良く、家には朱音も洋子もおらずからかわれずにすむ。
「天野さん、本当に亡くなってたんだ。ちょっとショック……」
 遥の書いた更科家の見取図や所持していたリュック等を見て晶は珍しく悲しい表情をする。
「僕は天野さんの無念をはらすために必ずこの事件を解決させなければならないんだよ」
「だね。あたしも天野さんには可愛がられたしお世話にもなった。兄さんのこともあるけど、これでまた決意が固まった」
 晶は力強く自分の意志を示し、真も力強く頷く。
「天野さんが書き残してくれたこの事件当時の現場の図を見て気がついたんだけど、あたし、どうも引っかかるのよ」
「僕の推理は変か?」
「ううん、真の推理は間違ってないと思う。あたしでもそう考えるし。ただ……」
「ただ?」
「見落としてる点がある」
「どこに?」
「天野さんは背後から刺されて倒れた。倒れたとき背後を見ると『こんなつもりでは……』と男が言ったのを聞き、その後男は勝手口に走って行った、これに相違ないでしょ?」
「相違ないよ」
「真はこの目出し帽の男をどんな人物だと推測する?」
「天野さんの証言からすると、臆病で計画性がない人物だと思う。発言やその後の行動、犯行時に上下白のジャージを選ぶ点からしてもね」
「で、放火は誰がしたと思う?」
「そりゃあ目出し帽の男……、ん、待てよ? 目出し帽の男じゃない!」
「ビンゴ。刺した後、怯えて勝手口に逃げるような男が、また現場に戻って灯油まいて放火すると思う? 可能性は0じゃないけど、普通に考えれば有り得ない。つまり……」
「一家を殺害した犯人は天野さんと目出し帽の男がかち合っているとき、まだ家にいた!」
「おそらくね。そして、真犯人は男が逃げ帰ったのを確認してからゆっくり、証拠隠滅か何かの目的で放火をした」
「その推理でまず間違いないだろうな。だとすると、犯人はかなり冷酷なヤツだな」
「冷酷だけじゃなく、頭もいいし、行動力もある。犯人は最初から殺すつもりで更科家に行ってるだろうし、凶器を隠し持って更科家へ通されてる点を考慮すると、ちゃんとした計画性を持っての犯行だったはず。計画外と言えば天野さんと知らない男がやってきて、知らないうちに死体が一つ増えたことくらいね」
「それと、更科さんと勇気さんを調査している人間がいたということを天野さんの所持品から知ったことだな」
「多分ね……、ん?」
 晶は何かを閃いたのか思考に入り動かなくなる。真は邪魔をしないようにそれを見守っている。しばらくすると自分の中だけで納得したのかうなずき始め、調査資料をもう一回見直し始める。
「これはこうかもしれないけど、もしかしたら聞いてる可能性も……、でもそんな甘いヤツとは思えないし……」
 晶はぶつぶつ独り言を繰り返す。真は資料にかじりつく晶をよそに、最近あった事件事故を検索するためパソコンの電源を入れる。パソコンの起動する音に晶が反応する。
「何調べるの?」
「最近あった事件と事故を検索して、黒田が亡くなってないかを調べる。あとは黒田の住んでる住所の周りの地図を見てプリントアウトしておくよ」
「な~る」
 晶は考えるのをやめて真の肩越しに検索作業を見る。全国ニュースから始まり地方紙の事故まで検索するが黒田という人物の名前はどこにも見あたらない。
 地図検索で住所を調べると最寄の水城駅から二駅隣の月笠駅から徒歩十分くらいの場所らしい。真は手際よく地図を印刷してそれを遥のリュックにしまう。
「まだ生存してる可能性が高いな。今すぐ行くか?」
「愚問。真犯人に先を越されたら目も当てられないでしょ?」
「ああ、じゃあ黒田の自宅に行ってみるか」
「あっ、その前に探偵所で作成した更科さんの調査資料もリュックに入れておいて」
「ん? 持ち歩くのはまずいんじゃないか? 無くしたら大変だぞ?」
「大丈夫。あたしにちょっとした考えあるし。でも念のため資料のコピーを一部作っておいて」
「分かった。晶がそう言うのなら間違いないだろう」
 真は手際よく資料をコピーし終えるとパソコンの電源を切り出かける準備をする。リュックに資料のファイルを入れ、昨夜携帯していた熊撃退用スプレーを引き出しから取り出し、ズボンの後ろポケットに入れる。 それを見ていた晶が問いかけてくる。
「それ、催涙スプレー?」
「ああ、熊撃退用だけどな」
「ふ~ん」
「何かご不満でも?」
「ううん、別に。しいて言えばもっと頼りになる武器がほしいなぁ~って。スプレーだと相手の意表を付かない限り効果ないし、何かしらの遮蔽物でガードされたらそれまででしょ?」
「そう言われたら不安になるだろ。そういう晶はどうなんだよ」
「あたしは大丈夫。空手二段に逮捕術も心得てるから」
「相手が拳銃持ってたら?」
「避ける!」
(言うと思った)
「ま、相手が拳銃を持ってたら、そのときはそのときで考えればいいんじゃない?」
 晶はあっけらかんとしている。
「その状況では考えてる時間も余裕もないと思うんだが……」
「ホラ、ぐずぐず言ってないで黒田んちへ行く! ハイ急いで!」
 晶は真の両肩を押さえて急かせる。
(晶と出会ってからは完全に晶のペースに振り回されてるな)
 振り回され戸惑いを感じながらも真は晶の従うまま行動を取る。それが事件の核心に迫る一番の道だと理解しながら。

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