secret justice
第33話

 午後三時半、真は緊張した面持ちで『sora』の本部の前に立っていた。晶はちょっと離れた場所から携帯電話で誰かと話している。 ここに来る途中お互い何も話さず無言で来た。幸のことは気になるが晶に聞きくことはできない。真は頭の中で一人グルグル思考を巡らせていた。
「おまたせ。覚悟は決まった?」
 話し終えた晶が真に駆け寄って来る。
「ああ、大丈夫」
「うん、じゃあ入ろ」
 真はドアの前に立つと深呼吸をする。事務所のドアをノックすると、前回招き入れてくれた女の子の広瀬が出てくる。 広瀬は真の顔を見た瞬間「あっ」という表情をするが、気を取り直して用件を伺う。
「何かご用ですか?」
「鹿島先輩に用件があるんですが、取り次いで貰えますか?」
 丁寧に頼む真に広瀬はちょっと戸惑いながら、無言で事務所の奥に小走りで走り去る。
「ねぇ真、追っかけた方がいいよ!」
 背後にいる晶が真の背中をつつきながら急かす。
「ああ、僕も同じことを考えてた」
 目を合わせると広瀬の後を追って事務所の奥にある会議室に前で立ち止まる。ドアは曇りガラスで、はっきりとは見えないが四人の人影が見えた。
 覚悟を決めてドアを開けると会議室には優に話しかけている広瀬、リーダーの啓介と棚橋がホワイトボードの前に立っている。活動内容を議論しているようでホワイトボードにはこの周辺のマップらしきものが書き込まれていた。
 広瀬を見ると気まずそうな顔をしてこっちを見ている。いきなり入ってきた真と晶に啓介はきょとんとしている。
「草加君。どうかしたのかい?」
 冷静を装って啓介が話しかけて来る。
「佐々木先輩、今日は例の事件の話で伺いました」
 真はきっぱりとした口調で話を切りだす。
「更科さん一家の殺害及びその放火の犯人がやっと分かったんです」
 このセリフに対して皆一様に表情が変化する。その中で唯一表情を変えなかった人物は予想通り優だ。
「犯人が分かったって? 何を言ってるんだ? 犯人なら昨日に逮捕されただろ? ニュースを見てなかったのか?」
 巨漢の棚橋が真に話しかけてくる。
「あの報道は真犯人を油断させるために流されたモノなんです。報道で流された人物も事件には関与していますが、主犯ではなかったんです」
「じゃあ一体誰なんだ! 勇気をヤッたヤツは!」
 棚橋は興奮して真に詰め寄って来る。 しかし、その間に晶が入り両手で制止をかける。
「落ち着いて。ちゃんと説明するから」
 棚橋は女の子に弱いらしく、よろけながら後ろに下がる。その姿を確認して真は一呼吸おいて話始めた。
「単刀直入に言います。犯人は鹿島先輩です」
 セリフを聞いて啓介と棚橋は同時に驚嘆のリアクションをする。しかし、優は相変わらず表情を変えずに真を見ている。さっき屋上で見せてくれた笑顔とはかけ離れている。
「い、いきなり何を言い出すんだ草加君。鹿島君が犯人であるわけないだろ? 証拠でもあるのか?」
 啓介はかなりうろたえながら真に質問する。
「証拠は……」
「証拠はない」
 晶が真の代わりに話を始める。
「証拠がないのに鹿島君と決めつけるのは良くないよ」
 啓介は当然の反論をする。しかし、晶は全く意に介さない。
「証拠はないけど。犯人は鹿島さんなの。それは本人に聞くのが一番早い。そうでしょ、鹿島さん?」
 ずっと黙っている優に晶は投げかける。優は終始全く表情を変えずに晶を見ている。
「鹿島さん。答えていただけますか?」
 晶はもう一度問い、優は腕組みをしたまま口をおもむろに開く。
「いきなり事務所に入ってきてどこの誰だが分からないけど、佐々木さんの言うように証拠もないのに私を犯人だなんて失礼じゃない?」
 優は当然の主張をするが晶もひるまない。
「鹿島さんは草加さんの調査メモを見て捜査内容を聞いたとき、草加さんが事務所としか発言してないのにも関わらず、今日草加さんとの会話で探偵事務所と断言しました。これはどう説明しますか?」
「人を調査すると聞いて、その資料を事務所に取りに行くと聞いたら十中八九探偵事務所と推測するんじゃないかしら?」
 (その通りだ。晶、どう切り返すつもりだ?)
 予想していた反論だが真には返す言葉が見つからず、どぎまぎしながら二人のやり取りを見つめている。


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