secret justice
第4話

 翌朝、携帯電話のバイブ音で真は目を覚ます。携帯の液晶を見ると六時半を表示している。まどろみの中、真はいつもの段取りでさっさと制服を着て廊下に出て洗面所に向かう。
 習慣になっているのでその流れに淀みがない。 寝ぼけ眼で顔を洗った後、歯を磨こうと洗面台の棚に手を伸ばす。そのとき鏡に嫌なモノが目に入る。
(寝ぼけて忘れていたが、コイツが憑いてたんだっけ……)
 そこには鏡越しの遥が笑顔で手を振っており、真は苦笑いしつつ鏡に写る天野に手を振り返す。歯を磨き終えると背後に立つ遥を無視してキッチンに向かう。母と朱音はもう起きているようでキッチンから話し声が聞こえてくる。キッチンに入る前に背後を確認すると、気を遣っているのか遥の姿はない。
(いないのではなく、本当はいつも傍にいて見えてないだけというのが虚しいな)
 気持ちを切り替えてキッチンのドアを開けると、朱音が嬉しそうに振り向く。
「あっ! おはよう~、エロ大臣」
 制服姿の小悪魔は茶碗を持ったまま毒を吐く。
「真、昨夜どこに行ってたの? 深夜にうろうろしてたら不審者と間違われるわよ。むしろ不審者じゃないでしょうね?」
 我が家で一番の権力者である母の洋子(ようこ)も同時に攻撃を繰り出してくる。毎度のことだが顔を合わせる早々、真は二人から温かい言葉責めに遭う。海外にいる父が外交の仕事をしてるのはこれが原因ではないのかとよく思う。
「エロ大臣って、僕はいつからそんな役職まで昇進したんだ? それと母さん、僕は不審者じゃないよ」
 慣れた感じで言葉を交わし食卓につく。今日の朝食は、ご飯、大根と茄子の味噌汁、キュウリの漬け物、卵焼き、と草加家の定番メニューだ。
「お母さん、お兄ちゃんって深夜、女の人と会ってるんだよ」
「ぶっ!」
 遥の姿が想像され、真は飲んでいた味噌汁を吐きそうになる。
「今お味噌汁を吐きそうになったのが何よりの証拠です! 裁判長!」
 朱音はドンとテーブルを叩き、有罪アピールを繰り出す。
「あらっ! ホント怪しいわね。真、ちゃんと避妊はしなさいよ!」
 洋子は弁当のおかずを詰めながら、とても為になる助言をする。
「ああ、あのう皆様? 僕の異議申立は許可してくれるのでしょうか?」
「却下!」
 二人揃って却下のハーモニーを奏でる。良く晴れた早朝、草加家の長男は味噌汁碗を持ったまま我が境遇を想い耽る。 通学中のエレベーター内で天野は一言こう言った。
「大変ね」


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