赤いサヨナラは僕に似合わない
赤いサヨナラは僕に似合わない


きみは僕を変えられないし、僕にはきみを変えるほどの技量はない。


僕たちはいろんな事に目を背けて一緒にいた。そんなこと、もうわかってた。

でも、それでいいんじゃないかと思っていたんだよ。恥ずかしいな、今更何を言ったって遅いけど。僕らは僕らのまま、やっていけるのかと思っていた。僕のこんなダメな部分も、全部受け入れてくれるんじゃないかと思っていたんだ。だってあの日、君が僕に素敵だと言ったから。

君は僕に愛想を尽かして出て行ったのかな。

それとも、僕のことが本当は好きじゃなかったんだろうか。



ああ、なんでもいい。もうなんでもいい。全部消えてしまえばいい。君も、僕も、あの店のクランベリーも、君が残していった僕の中にある君の記憶も。


「……っ、」


冷たいひんやりとした僕の指を、再び焼けるように熱い君の痕へと這わせる。溶けていく。全部、じりじりと、溶けていく。


僕なりに君のことが好きだったよ。でも君はそうじゃなかった。ただそれだけのこと。


夢を追いかけることを言い訳にして、いい加減に生きている僕に君は気づいていたんだろう。そんな君に僕は気づいていたよ。気づかないふりをしたかったんだよ。

君が残していったこの痕の意味を僕は何度もこの先考えるよ。意味なんてないのかもしれないこの赤い痕をなぞって涙を流す男のこと、どうか忘れないで頭の片隅にでも残しておいて。


何処にいるのかも何をしているのかもわからない君に向けて。滲む視界の中僕は部屋に駆け込んで、自室の机の中からペンと新品のキャンパスノートを取り出した。

僕の涙がボールペンのインクを滲ませて、ノートの紙はぐちゃぐちゃになったけれどもうこの際なんでもいいだろう。

小説家になりたい、だなんて大それた夢を君は笑わずに聞いてくれたね。いつか君がこの物語を手に取った時、ほんの少しでも後悔してくれたらそれほど嬉しいことはないよ。


すべて消えていたはずの君の荷物。僕の机の引き出しに入っていたあるはずのない君の口紅。

あの日つけていたあの真っ赤な口紅を、わざわざここに入れておくなんてさ。君が去っていった後のことまで、君には全部お見通しってことか。ああ本当に、僕は愚かだ。


僕を変えれない僕のこと、消えることで変えた君をのこと、残された赤い痕の意味を僕は勝手に想像してこれからも生きていくよ。



【赤いサヨナラは僕に似合わない】Fin.
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