癒しの田中さんとカフェのまみちゃん
「まみちゃん、ここかい?」

アパートの前で涼太さんが車を止めた。

「はい。今日はいろいろとありがとうございました。」

「たぶん、まだマスター、店にいると思うから、
無事に着いたことを連絡して。マスターも心配していたから。」

「そうですね。ありがとうございました。おやすみなさい。」

涼太さんを見送り、部屋に入った。


早速、マスターに電話した。

「まみちゃん、明日のバイトはいいよ。
しっかり休んで。健が頑張るっていっているから。」

「何から何まですみません。
葵さんと健くんにもよろしくお伝えください。」

「あぁ。しっかり休んでね。お大事に。」

「はい、ありがとうございます。失礼します。」

本当に今日はみんなに迷惑をかけちゃったな、と思った。

葵さんからの差し入れをおいしくいただき、
おなかは満腹になったものの、
クリニックで眠ったせいか、なかなか寝付けなかった。

思い出すのはさやかさんが言っていたことば。
『B.Cコンピュータの松浦社長がまみちゃんを
お姫様だっこしてここまで連れてきたの。王子様って感じだったわよ。』
『まみちゃんのことが心配でたまらないって感じだったわ。』
このことばがリピートする。

そしてかすかに覚えている『まみちゃん!』という声。
松浦社長が私を運んでくださったことを考えると、
あの声は松浦社長のはず。

でも、私の覚えている限り、
松浦社長がカフェにいらしたことはない。
翻訳の仕事のときは、私を目の前にしていたら『きみ』って呼ぶし、
そうでなければ『白石さん』って呼ぶ。

私は、知らないところで松浦社長と接点があったのだろうか。
自分の中でモヤモヤしたものが生まれた。

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