秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
 僕はその週末の夜、急きょ義之さんと食事することになった。
この前の高級レストランではないが、品のある料亭に呼ばれた。

和紙の淡い照明に、チラリと見える窓の向こうは暗い竹藪がライトアップされて幻想的否雰囲気を作り出す。
部屋は掘りごたつで、手入れされたい草がとても肌触りがよかった。

「匠くんはもう二十歳超えていたね」

 僕が返事をする間もなく、戸が開いて割烹着姿の女性が瓶ビールをもって義之さんと僕のグラスに注ぐ。

「まあ、いっぱいどうぞ」

「あ、はい、いただきます」

 くいっと半分ほど飲み干すと、義之さんもほとんどを飲み込み、カツンとテーブルにグラスを置いた。

「この前は本当に世話になったね。もう感謝以外言葉が出ないんだ。本当にありがとう」

 深々と頭を下げられ、僕はいたたまれなくなる。

こんなに自分のことで精いっぱいの人間が、たまたま気になった女の子を見つけ出しただけなのだから。

「あの……あれから、どうですか?」

 僕はぐいっとグラスの残りを飲み干す。

「遥姫かい?君はあんな遥姫を知ってるかい?」

 あんな遥姫?

僕がぽかんとしていると、義之さんはおかしそうに話し始めた。

「今まで口下手だったあの娘が、どういうわけかワガママを言うようになってね。……ワガママ、というのも変な表現だな。うーん」

 首をひねる義之さん。

「正直……?」

 恐る恐るだした言葉だったけど、義之さんはぽんと手を打って「それだ!」と喜ぶ。

「今までも別に嘘をついてたわけじゃないけど、黙って溜め込むようなところはあったんだ。
しかし、あの行方不明になって君と一緒に帰ってきたときから、こう……自分の意思をはっきり伝えるようになってきたんだ」

 学校であった嬉しかったこと、嫌なこと。でもときどき、それがあっているのかどうか……少し自信がなさそうなところ。

確かめるように話すようになった、と義之さんは嬉しそうに話す。

「見つけたとき、遥姫の様子はどうだったかな?」

 聞かれて改めて思い出してみる。

確かに、言われた通りすこし反抗的な言い方もしたけれど、あれはいわゆる……

「反抗期到来、って思いました」

 僕の率直な言葉に、義之さんはぶはっと吹き出すように笑う。

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