ふたりぼっち

act.11 優しい嘘

***

ハルが目を伏せながら、俺に尋ねる。



「えっと、ですね。どうして、私はここにいるんでしょうか……。あと、二階の南京錠がかかっている部屋には、一体……なにがあるんですか……? 」


そうか、彼女は二階のベランダで倒れていたと聞いたが、その時の記憶はないのか。



「ん、……」


俺はしばらく思考する。

……そうだ、それらしい嘘を吐いてしまおう。


どうせ明日になれば、全て忘れてしまうんだ。


ならば、今は彼女を安心させることのできる嘘を吐こう。


本当は、妻に嘘なんて言いたくないが、仕方ない。


「そうだな、そろそろ話すよ。ハル、君は…………父親の知り合いだった俺の家に、預けられたんだ。両親が旅行に行っている間、ね。娘を1人にするのは心配だから、数日間だけ一緒にいてくれと言われてさ」

俺は思考をフル回転させながら、嘘を吐き続ける。

「ちなみに南京錠付きの部屋は、俺がここに住む時に運んだ荷物が片付いてないから、鍵つけてあるだけ。俺の部屋に女物があるのは、君が生活するのに不便ないようにと両親が色々と買っておいたんだ。それだけだよ。ハルの両親と俺は、仲良いからな」


嘘を吐いた罪悪感が、心臓にズキズキと痛みを伴いながら突き刺さる。

「そう、なんですか……」

彼女は納得いかない様子で、不満そうな表情を浮かべていた。
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