幾久しく、君を想って。
来てくれたのぉと甘える声を出し、ご主人を呼ぶ高本さん。
呼ばれた人はギョッとして、直ぐに彼女の側へやって来た。


「毎度どうもすみません」


松永さんとご主人は面識があるらしく、ぺこりと頭を下げている。


「いいえ、お疲れ様です」


松永さんはそう労い、ご主人の肩に腕を掛ける手伝いをしている。


「しっかり歩けよ」


凭れ掛かりながらヨロヨロと踏み出す妻を心配する夫。
前にもいいな…と思ったけれど、間近で見ると余計にそんな気持ちにさせられる。


出入り口まで歩く二人の姿を見つめ、徐ろに自分の靴を履いた。
立ち上がろうと床に手を付き、膝を伸ばす態勢を整えたところで彼が言った。


「どうぞ」


目の前に出される掌に掴まれと言わんばかり。
その手を握ってもいいのか躊躇い、それでも払うのも失礼な気がして指先を床から離した。

手元に指を伸ばすと、優しい力で包み込まれていく掌。
心まで包まれる様な感覚に陥るのはどうしてだろうと思いながら握り返し、軽く力を入れて引っ張られた。

彼の歩調に合わせて歩きながら、あのデートの日を思い出す。
今夜はあの日の続きだろうかと思いつつ、店の暖簾を潜った。


店を出たところではまだ部会のメンバーが集まり、二次会の会場を探している。
金曜日の夜だからなのか、なかなか店が空いてないようだ。


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