幾久しく、君を想って。
「待って!」
何としても止めたくて、彼の腕を抱き締めた。
面倒くさそうに振り返られても、その腕を離さないで願った。
「お願いだから、待って!お願いだから………行かないで……っ」
言葉の最後は涙になった。
拓海と二人だけで残される生活が限界に使いことを感じていた。
それまでの私は追い縋ることもしないで彼の背中を見送っていた。
きっと戻って来てくれる…と、心の何処かで信じていた。
でも、段々そうだろうかという疑問が湧き始めた。
このまま外へ行ってしまい、二度と彼がこの部屋に帰ることは無いのではないか…と思うようになっていた。
繋ぎとめる方法が見つからなくて、最後の手段のように縋り付いた。
卑怯な彼はその腕を振り解くこともなく、私のことを見下ろしていた。
「……真梨」
久しぶりに名前を呼ばれて嬉しくて、彼の顔を見上げた。
彼は怒ったりもしておらず、不思議と切なそうな表情を見せていた。
きゅんと胸が鳴って、更に縋るように腕に力を込めた。
夫はそんな私の肩を抱き、自分の頭を髪の毛に擦り寄らせた。
何ヶ月ぶりかで彼に擦り寄ってきてもらった。
置き去りにされた子犬のように、彼に甘えたくなった。
胸に顔を埋め、思いきり深呼吸を繰り返した。
彼の匂いを嗅いで、心の底から安心を得たかった。