幾久しく、君を想って。
「おじさんは家に帰らないの?」


最寄り駅に着くと、拓海は不思議そうな顔をした。


「俺はいつも宮野さんを送る役目なんだよ」


アパートへ続くガード下で痴漢や引っ手繰りが増えている…と教えたら、拓海は「学校でも聞いた」と喋った。


「先生が帰りには気をつけるようにって言ってた」


そんな事は私に少しも教えてくれない。
まるで自分よりも彼の方が親みたいで、ますます不機嫌そうになった。


「でも、おじさんが毎回送ってくれてたんなら安心だったね、お母さん」


振り返った拓海が明るく話しかけてきて、思わずドキッと胸が鳴った。

「うん…」と答えたものの、何だか胸が詰まってきて仕方ない。



「…どうしたの?」


返事する声が暗かったせいだろうか。
前を歩いていた拓海が寄ってきて、私の手をきゅっと掴んだ。




「拓海…」


あったかくて優しい手を握り返した。
いつの間にか人の気持ちを察するような子供になっていたと知り、それが自慢だと思うと、急に涙がせり上がってきた。


泣きだしそうなのを堪え、ぐずつく鼻の音を静けさの中に響き渡らせる。

心配そうに顔を見つめる拓海に笑いかけ、瞼を瞬きさせながら聞いた。



「……拓海は……松永さんが好き?」


自分の気持ちよりも先に拓海の気持ちを知りたい。

戸惑うような眼差しを見せた拓海は、少し先を進む彼の姿を目に入れた。


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