幾久しく、君を想って。
「とにかく、私はこれからも一人でいいと思っています。拓海もこれから思春期になるし、お金も掛かるようになりますから」


だから恋愛どころではないんだ…と言いたげに話を切った。

高本さんは顔を背ける私に呟くように、「まっちゃんはいい奴なんだけどな…」と囁いた。


長靴のゴムが擦れる音がして、厨房の方へと戻る高本さん。
忠告は有難いと思うけど、誰かと恋愛して傷つくのが怖い。


子供への愛情なら一方的に注ぐだけでいいし、見返りも要らない。

将来は独り立ちして、社会へ出て行ってさえくれればいい。



(そうよ。どうせ私には人を愛することなんて出来ないし)


思い出しかけた過去を閉じ込めるかのようにデスクに着いた。

栄養管理の表を開き、先週やり残した入力作業の続きを始める。


数字を打ち込みながら頭に浮かんでくるのは、金曜日に自分を送ってくれた人の顔。


別れ際にじっと、私のことを見ていた。



真っ直ぐな眼差しで、逸らすこともできない雰囲気だった。

微かに胸の奥が苦しい気もしていた。


だけど、過去に別れた人のことを思い出しそうにもなり、ぼうっとしてしまった。


(…そうよ。私にはまだ、他の人を見ることは無理……)


自分の心はまだ揺れている。

それを思い出したくないから、拓海のことも別れた相手のことも口に出したくない。


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