幾久しく、君を想って。
実際に死に直面したら、真っ先に自分よりも相手のことを思うんじゃないのか。

いずれは空気になって消えてしまう自分よりも、後に残され、寂しく生き続けていかなければならない相手の未来を幸せにしておきたいと願うのではないか。


「そういう意味で用意されたのが離婚届…ってだけです。この映画だけじゃないけど、一言に離婚と言っても、いろいろなドラマがありますから」



(松永さんにも?)


そう聞きたい気持ちを抑え込んだ。
水音にヒートアップさせた神経の昂りを鎮めて貰いながら、自分の離婚を思い返した。



あれは拓海が生まれて三ヶ月くらい経った頃だった。
子供が生まれたのに帰りが遅くなってくる夫に、もう少し早く帰って来て欲しい…と願ったーーー。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「俺は拓海には必要ないと思うけど?」


ネクタイを緩めながら言い捨てられ、えっ…と小さく声を上げた。



「何言ってるの?赤ん坊に父親は必要よ?」


生まれた頃から抱っこもあまりしない人だった。
拓海は夫が抱くと体を仰け反らせて、「ぎゃーぎゃー」と泣き叫ぶような子供だった。


可愛くない…と思っていたのかもしれない。
おかげで私一人が拓海のことを全てやるようになり、必然的に夫のことを構えなくなった。


< 66 / 258 >

この作品をシェア

pagetop