幾久しく、君を想って。
一日中、拓海と二人だけの日々が続く中、会話の中心があの子のことだけになっても不思議はない。

だけど、夫はそれを一番嫌った。
父親として、子供のことを聞かされる日々にウンザリしていた。



「俺は父親をする気にはならない」


何もしないくせにそう言った。
育児放棄を平気でするようにもなった。


若かった私には、夫の我が儘を聞きつつ、上手く育児を手伝わせることが出来なかった。
全てを自分が背負い込み、彼の負担を減らしていくしかなかった。


それが家庭から彼を追い出す結果となった。
外に作った愛人の家に泊まり込むようになり、家に帰って来なくなった。



何度も何度も話し合い、「ヨリを戻そう」と決めた。

でも、結局は上手くいかず、心身共に疲れきった私は、軽いノイローゼ状態に陥って離婚を決めた。


話をしたくても逃げてばかりいる夫とは、一日も早く別れたかった。

離婚届に判と署名をもらう為に、慰謝料も養育費も一切要らないと断った。



離婚が成立したのは、拓海が満一歳を迎えようとしていた頃だ。
桜の花が散り始めて、風に舞い上がる時期だった。


正に『サクラチル』だな…と思いながら、市役所へと向かったのを覚えている。

届けを出した後は、妙に清々しい気分を感じた。



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