幾久しく、君を想って。
あれからずっと、心の隙間を埋める男性には出会えなかった。

幼い拓海を育てていくのが一生懸命で、とにかく毎日、両親を少しでも安心させたくて働いた。




「『幾久しく』…って言ったくせにね…」


離婚した後で結納の道具を庭で焼きながら、母は憎らしそうにそう零した。

目録や飾り物の数々が燃えていく様を見つめ、幾久しい間柄になれなかったことを後悔した。


自分にはもう二度と、愛せると思えるような人は見つかりっこない。

幾久しくしてくれるのは、我が子だけだと思ったーーー。



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長いこと、ぼんやりと考え込んでいたんだろう。
気づけば松永さんが黙って私のことを見ていた。



「……あっ、ごめんなさい…」


ぼうっとしていたことを謝った。
彼はいつもの優しい笑みを見せて、「いいえ」と軽く首を振った。



「今の間、凄く怖い顔をしてましたね」


鋭い所をつかれ、ギクッと肩を竦める。


「す、すみません」


目を伏せながら項垂れたら、「そうじゃないか」と否定される。


「悲しい顔をしていたんだ。寂しそうで、か弱そうな感じの顔」


ハッとして彼を見る。
微笑む眼差しから視線を逸らせず、そのまま見つめ返してしまった。


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