最高の誕生日プレゼントをありがとう
隠れ家風のイタリアンの店内。

おいしい料理に思わず笑みがこぼれるわたしに、専務が思い出したように尋ねた。

「そうだ、さっきも聞いたけど、誕生日プレゼント何がいい?」

専務の優しい眼差しにドキリとしながら、わたしは慌てて首を振る。

「そんな!専務が居てくれるだけで欲しいものなんて」

「あゆ、仕事中じゃないんだから専務じゃなくて名前で呼んで」

あ。そうだ…。

「…拓海さんが居てくれるだけでいいんです」

付き合って一年と三カ月。今だに専務と呼んでしまいがちなわたし。

言ったことはわたしの本心だったけど、拓海さんは不満そうに眉を寄せた。

「去年の誕生日もクリスマスも俺が選んだものをあげたから、今年はあゆが欲しいものをあげたいんだよ。本当に何もない?」

拓海さんの再度の問い掛けに、ひとつだけわたしが欲しいけど、言えないものが浮かんだ。

無言で目の前のパスタをクルクルするわたしに、拓海さんは右手を伸ばし、ふわりと頭を撫でた。

「あるんだろ?言えよ」

甘やかすように頭を撫でられて、わたしの中の気持ちが動きだす。

「本当に、何でもいいんですか?」

「ああ」

微笑む拓海さんの目を見つめ、ずっと前から欲しかったものを告げた。

「拓海さんの時間をわたしに下さい」


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