溺愛妖狐ひろいました
「尊、私ね、とても怖いの」
「巴?」
「誰にも忘れられ消えていくのが」
それまで、弱音なんて吐かなかった巴が初めておれに見せた弱音。
それがおれにはとても嬉しかった。
巴に頼られることが、自分を必要とされているのだと思えた。
「ならば、今すぐ消えたい。まだ私を覚えている人間がいる、今この時に」
「―――――え」
それでも、巴の弱音はおれにはとても残酷なものだった。
おれは巴とずっと生きていきたい。
そんなおれに、巴は今消えてなくなりたいと言う。
どうして当然そんなことを思うのか。
おれにはわからなくて戸惑った。
一日でも長くおれといたいと思ってくれないの?
巴は、おれといるの嫌だった?
そんな気持ちばかりが浮かぶ。
いつだっておれは自分勝手。
「こんな事を頼めるのは、巴だけなの」
元野狐である自分だけだと言われた気がした。
それでも、おれにとって巴はすべてだった。
巴だけがおれを認めてくれて、拾ってくれて、神使にまでしてくれた。
おれに居場所をくれた。
それからの事は、よく覚えていない。