隣の彼は、無愛想。
「んん?道がわかんない…」
方向音痴だったこと、今更思い出した。
私が暮らすのは、高級マンションの40階で、最上階。
私はアパートでも何でも良かったのに…「可愛い娘をそんなところに住ませるわけないだろ!!」という父の言い分でセキュリティー万全の高級マンションに住むことになった。
で。
マンションまでの地図はあるけど、方角すらわからない。
「もう、誰かに聞くしかないよね…」
私は極度の人見知りだし、本当はこんなことしたくないけど。
「あ、あのぉ…」
声を出してみても、私の声に気づく人は誰もいない。
そりゃそうだ。こんな昼下がりの賑わう町中で、ほぼ独り言のような小声を出したんだから。
今思えば、こんな道端で聞かずに、空港の受付で聞けばよかったんだろうけど、残念ながらバカな私にそんな考えは浮かんでこなかった。
ただ、このバカのおかげであいつと出会うなんて、思いもしなかった。