ビルの恋
品川駅に着くと、ホームで本条君が待っていてくれた。

本条君もジーンズだ。
キャメル色のダッフルコートを羽織っている。
私服姿は初めて見る。

「おはようございます」

「おはよう」

「良かったです、来てくれて」

「こちらこそ、丁寧に誘って頂いて・・・」

職場を離れると、会話が進まない。

本条君はそんなことは気にしない様子で、

「京急、乗りましょう。羽田に行くので」

と言った。

「羽田?」

「僕、実家が北海道なんです。この時間なら、日帰りできますから」

一瞬、何を言われたかよくわからなかった。

「北海道のご実家に?飛行機で行くの?」

本条君は、おかしそうに笑って答えた。

「さすがに、いきなり実家には連れて行きませんよ」

そう言うと、歩き出した。
半歩前を、私がはぐれないよう気遣いながら歩く。

早朝だというのに、駅には多くの人がいた。

電車もそこそこ混んでいる。

私のために、休日に時間を作って、飛行機まで手配してくれたとは。

伊坂君は、仕事の合間に時間を作って会いたがるタイプで、だから私たちはビルの外で会ったことがない。

そういう付き合いは都会的で楽しかったけれど、伊坂君ペースだった。

本条君は、伊坂君に比べると、相手に合わせる柔軟さがあるように見えた。



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