ビルの恋
体が冷えてきたので、ホテルに入り、ロビーのカフェに落ち着く。
オフシーズンなので、宿泊客はほとんどいないようだ。

ガラス張りの窓から見えるのは、樹々の幹や枝の焦げ茶色がわずか。あとは真っ白だ。

「ご実家、すごいね。他にも事業を?」

アイリッシュコーヒーを飲みながら聞く。

「道内で、似たような施設を何カ所かと、不動産関係もやってます」

そうか、本条君は北海道の御曹司だったのか。

「父でまだ二代目ですし、経営は万全とは言えません。

姉が、10歳年上なんですけど。意外と経営に向いていて、ここ十年で色々変えて。
今はそれが軌道に乗ってきたところです。

だから僕がすぐ戻る必要はありませんが、将来的には」

お姉さんがいるんだ。

「僕は東京で会社勤めしてる方が合っていると思います。自分のことだけ考えていればいいので」

「戻りたくないの?」

「あんまり」

「じゃ、ずっとS&Wにいれば?」

「そうもいかないと思います」

本条君は淡々と話し、コーヒーを飲んだ。

あとは何を伝えたらいいかな、と言いながら、

「戻るとしても、十年くらいは先の話なので、色々やってみたいことはあります」

と話をつないだ。







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