優しい彼
確かにあいつが誰にでも優しいのは腹立たしいが、それがあいつの性質なので仕方ない。

私が一番気に触るのは。

……あいつが私に優しすぎるってこと。

なにをしても
「愛衣のいいようにしたらいいよ」
だし、
普通の彼氏だったらヤキモチ妬いて怒るようなことをしても
「別にいいよ」
だし。

まあ、大人の余裕、もしくは後ろめたさといえばそうともとれるかもしれない。

二十六歳の私にバツイチ三十二歳の宜哉(たかや)。

そんな私たちだから。

ちなみに離婚した理由は、奥さんに好きが人ができたから。

別れて欲しいといわれて、好きにしたらいいよって、いつもみたいに笑ってる宜哉が容易に想像できる。

……そういう人、だもの。

でも、その優しさは無関心の裏返しなんじゃないか、とか思ってしまう。

「愛衣!……えっと?」
 
仕事終わり、会社を出るとき宜哉に会った。

「あ、宜哉は知らないよね。
同じ部署で同期の三峰くん。
三峰くん、営業の佐和田さん」

「どうも」

「……ども」
 
ふたりがぎこちなく、頭を下げて挨拶する。

ちょっとだけ、三峰くんが宜哉のことを睨んでた気がするのは……気のせい、かな。

「珍しく早く終わったから、食事でもどうかと思ったんだけど……。
連絡、いれといたよね?」

「ごめん。
三峰くんと飲みに行く約束してるから」

「二人で行くの?」

「そう。反省会、だから。……ダメ?」
 
上目遣いに宜哉の目を見つめる。


「いいよ、別に。
でも遅くならないうちに帰りなよ」

「……うん」
 
にっこりと笑う宜哉に、少しいじけて視線を外す。

私たちがふたりで歩いて行くのを、宜哉は手を振って見送っていた。


「なあ、ほんとによかったのかよ」

「いいんじゃない、別にー。
だってそういわれたんだから」
 
ガツン、空にしたグラスを机の上に叩き付けるように置く。

「俺だったら彼女が、別の男とふたりで飲みに行くとか許さないけどな」

「ふつー、そうだよねー」
 
……反省会、といいつつ宜哉の話で盛り上がる。

こんな風に他の男とふたりで出かけて、宜哉が嫌がったことは一度もない。

いつも「いっておいで」だ。

はっきりいって、楽しいわけがない。


私はただ、宜哉にヤキモチ妬いて欲しくてやってるだけなんだから。

「……宜哉はほんとに私のこと、好きなのかな」
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