イジワルな彼とネガティブ彼女
「本田さん、少し酔ってますか?」


「いや全然、なんでだよ?」


「最初は私のことを『高橋』って呼んでたのに、途中から『おまえ』って言ってたので」


「そっか?


じゃあ、何て呼べばいいんだよ?


『莉子』って呼ぶか?」


ニヤニヤ半笑いでからかってきた。


「け・・・」


結構です、って言いかけたけど、また文句言われるかと思ってやめた。


「け?」


「じゃなくて、イヤです!」


「ほんとヒドイな、おまえ」



まもなく、自宅マンションの前にタクシーは止まって、タクシー代を渡して帰ろうとしたら、


「いいよ、またな」


「困ります」


「じゃあ、今度返せよ」


「そんな・・・」


押し問答の末、私はあきらめて、


「おやすみなさい」


と、タクシーを降りた。



あんまりもめてても、困らせるだけだから。



「おやすみ」


という本田さんの声を背中で聞きながら、振り向かずにエントランスの自動ドアをくぐった。


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