待ち人来たらずは恋のきざし
・災いを転じて福となす

「…課長、珈琲、奢ってください」

フロアに居ないとは思ったけど、ここに居るとは思わなかった。

「あ、おぅ、浅黄か。今から休憩か」

「はい」

「…高いぞ?いいのか?」

「はい」

…。

「ほら、…で、どうかしたのか。…お疲れか」

「有難うございます。
はい、お蔭様で…ぐったりです。でも…よく解りません」

「…何が」

何が、お蔭様で、だ。…全く。
ぐったりとか、応えなくたっていいんだよ…。
朝から怠そうにしているから…聞いてみただけだろ…。

「何もかもです。自分の事もよく解らない…」

「…答えようが無いな」

「課長は男だから、私の…この年齢の女の気持ちなんて、聞いても解んないですよね」

「ん゙ー、そうだな。
まず、男と女では脳が違うって言うしな。根本的な考え方が違うかも知れないな。
言えたとしても、結局は男が考える男としての意見だな。
ま、俺の脳が完全な男脳ならそうなるな」

「…何もかも不安なんです」

「それは…余程、大事にされてるんだな」

「はい…それなんです」

「フ。ぬけぬけと…、よく言うよ。…どの口が言ってるんだか…」

「この口です」

「…そんなの当たり前だ。…一々言うな、解ってる」

…全く、もう。

「…仕方ないだろ。
軽い気持ちでは無い証拠だ。不安はあって当然、付き物だ」

「…ですよね」

「浅黄…それが好きになるという事だろ?
その年齢で不安になるとか、そんな気持ちになれてるなんて幸せだと思え…」

「人を好きになる濃さみたいなモノは、年齢で変わってくるモノですよね…」

「濃さか…。まぁ徐々にだろうけどな、興味が薄れて来る人も居るだろう。
…一般的にはって事だ。
当て嵌まらない人も居る。

いくつになっても恋はしていたいと、よく女性が言ってるのも聞くだろ?
反対に、涸れるっていうのかな、全く異性を意識しなくなってくる場合もある。
気持ちがあれば濃くもなるだろ…」

「課長は?」

俺か…、俺は…。

「俺は秘めたる思いがあればいいかなと思う」

…事にしている。
聞くな…そこは解れよな。

「そうですか」

…。

「浅黄…お前は。…いや、何でもない」

わざとなら浅黄の俺に対する質問は悪魔過ぎるだろ…。
間を置かずに返したつもりだが、俺の答えをどう取っているんだ。
浅黄も浅黄で、間を空けず、そうですか、なんて、あっさり答える…。
…まあ、そう答えた言葉が浅黄の答えという事ではある。
俺に関心は無い、そう取れという事だ。
長い長い、今となっては俺だけの秘めたる思いになった…って事だ…。
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