待ち人来たらずは恋のきざし


「おっちゃん」

「…お、よう、創君。…いつもいつも突然だな。驚かさないでくれ、心臓に悪い。
たまには連絡してから来たらどうだ」

「そんなの要らないでしょ。いつだってここに居るんだから」

「そう言われたら、そうなんだが」

「どう?落ち着いて来た?」

「ああ…。後からの分が何とか上手く成長してるから、また元のように出せるようになるよ。
あの時は悪かったな。随分助けて貰った。有難うな」

「自然現象はどうにもならないからね…。
回復を待つしかないし。損害を受けた物も、もう元には戻らないし。
農業は大変な仕事だ。
手助けって言っても、俺も長くここに居たから余計世話を掛けて申し訳無かったです」

「いや、ここら辺には宿泊出来るような場所は無いし、返ってうちみたいな家で悪かったな。
人手が一人でも欲しかったから助かったよ」

「素人だから邪魔してたようなもんだったけどね」

「いや、直ぐに来てくれて嬉しかったよ。
創君の顔を見るまでは正直途方に暮れていたんだ。
俺が長く引き止めたようなもんだったから悪かったな」

「まあ、俺は時間が自由になるから、その点なら大丈夫だったから」

「良かったのかい?」

「何が?」

「長く留守にして。誰か、寂しくさせたんじゃないのかい?
こっちに居る間、暫く会えなくてさ?」

「んー、まー、どうだったんだか」

「創君はまだ結婚はしないのかい?
近頃はよく解らんが、世間の若い男は、人を好きになるのも面倒臭いとか言ってるらしいじゃないか。
女性に興味が無いなんて、俺らからしたら意味が解らん話だよ」

「若い世代の中に、そんな考えの者も居るには居るらしいですよ。
その割合が増えたっていうけど、どうだか…。
今は何でも公になりやすいから。
昔は、何でもかんでも世間に知れるって無かったから、具体的な割合なんて言われなかったし。
昔も昔で、それなりに居たんじゃないかな」

「インターネットとかってやつか、あれなんか、そんな事がよく出てるだろ」

「まあ、それです。おっちゃん、知ってるんだ。
今の話に限らず、情報が溢れてるし、全てが正しいかって言ったら違う物もあるから。
見て鵜呑みにすると、情報に左右されてしまいがちだ。
だから人を好きになる事に興味が無いって言っても、実際の割合はどうなんだか…。
全ての人間に聞いた訳じゃ無い、基準を満たした平均ですから」

「子供も欲しく無いって言うらしいな」

「…色々知ってるんだ。まあ、世間が閉鎖的な情報しか取り上げ無いから良くないんだと思うよ。

子供に関して、もっと大らかでいいと思うんだけどな。
…形振り構わず子育てするより、まず自分の事優先なんだろうなって思う」

「…物で溢れてるからなぁ。
昔はって言うと、直ぐ昔とは違うからって片付けられてしまうが。
昔は、子供は国の宝だって、みんなで育てたようなところがあった。今は…いつからか知らないが、人との関わりを持たない傾向になって。
人間てもんは心があるっていうのに…寂しいもんだよな。
そんな中で子供の心は育っていく事が出来るのかねぇ…。

おっと、何の話だったかな」

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