見えない僕と彼女の気持ち
「ま、まって!」

すぅーっとテーブルの上を滑らせてリングケースを僕の方に戻すと、お財布から一万円札を二枚引き抜いて置き、彼女は去って行った。

呆然と崩れ落ちるように椅子に座る。

目の前には精一杯頑張った薔薇の花束と、リングケースに二万円。

……僕が一体なにをした?
なにがいけなかったんだ?
どうして、こんなことに?
 
そこからあとの記憶は定かではないが、気が付いたらアパートの自分の部屋だった。

まわりに散乱する酒の空き缶、空き瓶。
どうもやけ酒したみたいだ。

ずきずきと痛むあたまをはっきりさせようと洗面所で水をかぶると、……鏡に映っていないことに気が付いた。

……あれ?
僕、透明になってる?

訳もわからず、自分の身体を見るがやはり透明だ。
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