秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~


「その必要はないよ、ルッツ」


聞き覚えのあるテノールが、響く。
周りを見渡すと、全身をマントで覆った旅人然とした男が、馬を引いて近づいてきた。
日よけのためにつけていたフードを下すと、色の白い、端正な顔が姿を現す。


「……ギュンター様!」

「忘れ物があってね。途中で追いつくかと追いかけたんだが、さすがにルッツは早いね。目的地まで来てしまった」


ルッツは呆れた顔をする。


「忘れ物なんて口実でしょう。ギュンター様、今回は本当に余裕がありませんよ。どうしちゃったんですか」

「将来の奥方のことが心配でね。それに忘れ物は本当にある。妹の侍女が作っていた花飾りがあんまり綺麗だったからね。ちょうど白薔薇も枯れたころだろうと思って。やあ、コルネリア……ずいぶん腫れが引きましたね。良かった」


近づいてきたギュンターは、コルネリアの頬を撫でるとルッツのほうを振り返った。


「ルッツ、悪いが屋敷に戻って俺が訪ねてきたことをベレ伯爵に伝えてくれないか。俺はしばらくコルネリアと街を散歩するとな」

「はいはい、行ってまいりますよ。ではこちらの馬、お借りします」


ギュンターが連れていた馬の手綱を受け取り、軽やかにまたぐと人にぶつからないようゆっくりとしたスピードで走っていく。
コルネリアはまだ夢の中にいるような気持で、食い入るようにギュンターを見つめた。


< 137 / 147 >

この作品をシェア

pagetop