秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
ただ、存在を無に近くすることが、波風を立てずに済む方法だと思った。
継母の言うことを聞いて、弟妹の面倒を見て、父親の望む相手に嫁ぐ。それが正しい生き方なのだと。
「故郷だというのに、今までいい思い出も作れなくて。ギュンター様と一緒ならこんなに楽しかったのに」
それ以上言葉が紡げなくなったコルネリアの頭上から、柔らかい声が降りてきた。
「そうか。だったら余計来てよかった」
「え?」
「あなたがここを離れる前に、故郷にいい思い出ができたのなら最高じゃないですか」
ギュンターは片目をつぶって、コルネリアの両手を握る。
そして、触れるだけの優しい口づけを落とした。
その感触と波の音が絡まる。海から連想されるシーンに加えられた今のキスは、コルネリアの胸を激しく、しかしほのかな優しさをもって温める。
「楽しい思い出は、必ずしも場所のみに付随するものではありません。一緒にいる相手にもよるでしょう? 俺はあなたといると気が楽になるし、楽しい。押しつけがましくなく、かといって自分の意見がないわけではない。以前踊ったときもそう思いましたが、あなたは案外聡い。ほら、こうすれば俺の意図を察してくれる」
ギュンターがコルネリアに手を差し出す。
エスコートを申し出てくれているのが分かって、手をのせた。
歩きづらい砂浜を、ふたり、肩をぶつけ合いながら歩く。それは決して上品とは言えなかったが、駆け出しの恋人同士には心ときめく触れ合いだ。