秘密のラブロマンス~恋のから騒ぎは仮面舞踏会で~
ギュンターとコルネリアはどちらからともなく笑いだした。
「ふふ。ぶつかってます」
「そうですね。これもあなたが砂浜を歩きなれていないお陰だ。俺ばかりが下手なのでは格好もつきませんしね」
「まあ」
「ところでそろそろ、ふたりきりの時は敬語はやめましょうか。どことなく遠い気がして気に入りません」
「じゃあギュンター様から」
「コルネリアからどうぞ」
ギュンターは人差し指をコルネリアの唇に当て、その形をなぞる。
彼の無言のお願いをコルネリアは自然に感じ取った。
「……ギュンター」
名前を呼ばれた彼は、とてもうれしそうに眼を細める。
「コルネリア。会いたかった」
「私もです。別れた瞬間から」
「このまま連れて帰りたいくらいだ」
荒れた肌をいたわるように、ギュンターの手はコルネリアの頬を優しく包む。
「ベルンシュタイン領は山風で寒い。君の体に合うといいけど」
「合わない気候でも十七年暮らせているんだもの。どんなところでも大丈夫」
「でも笑っていてほしいからね」
「大丈夫。私、こんなに幸せな気分になるの、生まれて初めてなんです」
歩くたびに砂に沈んで歩きにくい浜辺、カモメの鳴く音、波のざわめき。
今までどうしても馴染めなかったものが、ギュンターを通して胸躍る思い出へと変わっていく。
彼というフィルターは、コルネリアが目にするすべてのものに、鮮やかな色を与えるようだ。
「じゃあできるだけ早く俺のもとにおいで。そのために、君には刺繍を頑張ってもらわなければならない」
「ああ。ベッドカバーですね」
「そう。刺繍は得意かい?」
この国では刺繍は女性のたしなみである。どんな女の子でもある程度の技術は仕込まれているはずなのになぜそんなに心配そうなのだろう。コルネリアは思わず笑ってしまう。
「得意ですわ。これから毎日部屋にこもって作ります」
「良かった」
ほっとしたように笑った顔に、コルネリアは胸をときめかせる。
この人がびっくりするほど綺麗なベッドカバーを作ろう。そうすれば自分に自信が持てるような気がした。