難あり編集者と極上に甘い結末
自分の意思を曲げるつもりはないし、あの岩崎さんに屈しるのは癪だ。だけど、良い作品を作り上げたいのなら、彼の言うことを受け入れる他ない。
いっそ、彼が傲慢で理不尽なことを言う人なら、私だって全力で反抗できたのに。
……なんて、そんなことを思いながら迎えた週末。私は、背後から感じる気配に耐えながら、パソコンの画面に映る文章を見ていた。
「あ、ほら、例えばここ。〝私は、気がつけば恋に落ちてしまっていたのだ〟って書いてあるけど、実際にそう感じた事があるの?」
「え」
パソコン用のデスクのイスに腰掛けている私。その背後から腕を回すようにしてディスプレイを指差す岩崎さんの顔が、すぐ真横にある。
私は、その彼との距離感に内心慌て、彼の言葉には動揺した。
「この言葉ってさ、恋愛を語る上での決まり文句みたいになってるよね。確かに、実際にそうなのかもしれないけどさ。俺は、なんか納得いかないな」
「納得いかない、とは」
「この文章で、本当に合ってるのかなって。沼川さんは、これでいい? 恋のはじまりって、これで合ってる?」
岩崎さんの視線が、ちらりとこちらに向いた。距離の近さと、突然絡んでしまった視線。それらに、どくん、と不覚にも一度跳ねた心臓が少しだけ憎い。