難あり編集者と極上に甘い結末
「ほら、行くよ」
「あ、はい」
晴れて岩崎さんと付き合うことになり、早一週間。私は、地獄の底にいたような日々から、一気に天に上がったような気分だった。
「君がいつまでも小説書いてるから時間ギリギリなんだけど」
「だって、珍しく波に乗ってて」
「それはいいことだけど、よりにもよって今日波に乗らなくても」
「そんなこと、私に言わないでください。私は知りません」
何故か〝杏子〟と呼ぼうか〝杏〟と呼ぼうかをずっと悩んでいた彼は、私の事を〝杏〟と呼ぶのがしっくり来たんだとか。その割には半分くらい〝君〟呼びなのが気になるけれど、そういう私は彼を下の名前で呼んだことはない。
そんな私と彼は今日、スターズ出版が定期的に行なっている、関東の書店員を数名招いて行うパーティーのようなものに参加する。
本当なら、もっと早く家を出るはずだったのだが、私が遅刻をしたせいで時間がギリギリになってしまった。
私の斜め前を早歩きする岩崎さんが、腕時計を見る。そして「タクシー止めようか」と提案した。私は、彼の提案をのむと、タクシーを止めて乗り込み、会場へ向かった。