その唇で甘いキスをして…
「お願い。困らせないで。」

アタシはカオルに頼むしかない。

ハルさんをこれ以上裏切りたくない。

「じゃあ、キスが無理なら…
どこか一箇所だけ好きにさせて。」

「どこかって?」

「じゃあ左手。」

アタシは左手をカオルに預ける。

カオルはアタシの結婚指輪を外して
左手にキスをする。

そして人差し指を口に含んだり
指の間に舌を這わせたりする。

なんだかカオルと寝てる気分になる。

アタシは手を引いてカオルから離れた。

「感じた?

…お前ってわかりやすいよな。」

カオルは意地悪な顔で笑う。

「その顔が見られたから解放してやる。

行っていいよ。」

アタシはその手を化粧室で洗って
結婚指輪を付け直す。

カオルの温もりを洗い流したけど…

それはいつまでも残っていた。

薬指に光る指輪がまるで手錠のように重く感じた。

ハルさんとの食事はうわの空で
ハルさんはそんなアタシを心配した。

その夜はホテルのスイートルームに泊まった。

ハルさんはベッドの上で裸にしたアタシの足首に
ダイヤモンドのアンクレットを付ける。

「綺麗。」

「気に入ってくれた?」

「うん、ありがとう。」

そしてハルさんはその足に優しくキスをする。

昼間この左手にカオルがしたみたいに
アタシの脚に舌を這わせる。

いつもより敏感なアタシを疑う事なく
ハルさんは愛してく。






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