クールな御曹司にさらわれました
私は吸わないし、そもそもこの家に帰っていない。
玄関に靴を脱ぎ捨て、急いで入ると、すぐにそこは台所と居間だ。廊下なんてない。

流しにタバコの吸い殻をひとつ見つけた。
おそらくは吸って、水道で火を消して捨てるのが面倒でそこに置いたのだろう。タバコの銘柄は父が吸っているもので間違いない。タバコはすでにカラカラに乾いている。

居間に移動すると、すぐに茶箪笥の現金を調べる。
銀行の封筒に入れておいて一万円が……ない。

やはり、父はこの家に来たのだ。
しかし、居付いているわけではなさそうだ。
タバコの乾き方からすると、数日前にお金が足りなくて立ち寄ったってところだろうか。しかし、一万円じゃたかがしれている。

とにかく、父は生きている。

……いや、実は心配だったの。レオマーケットグループから横領してまでお金が欲しかったなんて、悪い筋の人から追われてるんじゃなかろうかって。
そんでもって情報はゼロだし、尊さんたちですら見つけられないなら、もうその筋の人たちに命を奪われてるんじゃないかって、ちょっと本気で思ってた。

だから、ほっとしたっていうか……。
あんな父でも、ひどい死に方はしてほしくない。身内だもん。

待て待て、でもそれだって数日前のことだもんね。この二・三日で刺されて東京湾に捨てられてる可能性だって無きにしも非ず……。

ともかく、父親捜しの最初の進展だ。羽前家軟禁から一ヶ月少々にして初めての!

尊さんが帰ってきたら、夕食の席で話そう。
生きているし、立ち回り先に自宅もあるなら、ずっと見つけやすい。

……しかし、尊さんはよほど忙しい様子で、この日の夕飯も月曜の朝食も姿を現さなかった。

< 113 / 193 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop