クールな御曹司にさらわれました
「タマもよく来るのか、ここは」

私の顔を横からのぞきこんでくる尊さん。小森が前の席からからっと答える。

「安心してくださいね。俺と真中、本当にそういうの何もないんで。同期ってことくらいで」

「本当に、小森とは何も起こり得ないです」

答えてみて、なんで私は言い訳めいたことを言っているんだと頭が痛くなった。そもそも、この三人で焼き鳥屋という状況にまるで納得がいっていない私がいるわけですが……。

頼んだつくねがやってきて、私がそれを三等分する。

「真中、俺、端っこがいい。カリカリんとこ」

「タマ、これは黄身をつけて食べるのか?付属のネギも一緒に食べるのか?」

横から口を挟んでくるふたりを制して、つくねを分ける。なんなんだろう、この仲良しな空間は。

「ふたりともいいこにしてて。今、とりわけるから!」

私はとりわけ皿を手に、顔を出すふたりに強めに言った。

焼き鳥会半ばにして尊さんが席を立った。サラさんから電話みたいだ。
居酒屋の外へ出て行く彼を見送りながら、小森が口を開いた。

「いやあ、驚天動地とはまさにこのことだねぇ。真中くん」

「茶化してんのか、テメー」

「口が悪いよ、未来のレオマーケットグループ総帥夫人」

「やめて、無理!」

私は両のこめかみを押さえ、かぶりを振った。

「実際どこまで進んでんの?」

小森の無遠慮な質問にがばっと顔をあげる。

「なんにもしてないわよ!!」

尊さんは私をおとす宣言をして以来、ほとんど私に触れてこない。しかし、好意はわかりやす過ぎるくらい行動に現れている。
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