クールな御曹司にさらわれました
「本当は一緒に……親父と3人でこうして出かけてみたかったのかもしれない。母親は今ではそこそこ元気だし、今更だから思うんだが、一度くらいゴネてみればよかったな」

できなかった我儘をたどる尊さんが、少しだけ寂しそうで、私はぐりんと首を巡らせた。

「言うだけ言ってみたらどうですか?」

「どういうことだ?」

「実現させるわけじゃなくて、『あの時、本当は一緒にピクニックしてみたかった』ってご両親に言うんです。変わり者の尊さんがそんな殊勝なことを言ったら、お父さんもお母さんも驚きますよ。きっと、嬉しいと思います」

変わり者って、さりげなく言っちゃったけど、尊さんは気にしていない様子でふむふむと頷いている。

「なるほど、リップサービス的だが、親子の信頼関係の維持には有効そうだ」

「また、そんな言い方してぇ」

「実際のピクニックはこうしてタマが連れてきてくれるしな」

満足げに言って、尊さんはおにぎりをぱくりと食べた。

風が気持ちよくて、日差しいっぱいの公園の午後。尊さんとピクニック。
うん、悪くはないかな。

「あ、尊さん、ご飯粒」

私がほっぺたからご飯粒をとってあげると、その右手を尊さんがしっかりと捕まえた。
そのまま、私の指先をぺろりと舐め、手のご飯粒を奪っていく。

そんな無邪気な仕草に、胸が苦しくなった。
指舐めないでくださいよ、もう。
< 151 / 193 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop