クールな御曹司にさらわれました
尊さんがぐっと一瞬詰まってから、珍しくぼそりと言う。

「あれは、その…………いや、なんでもない」

「無理やりでも婚約してしまえば、文句は言えないと思いましたか?流されるだろうと思いましたか?馬鹿にしないでください」

言葉にすると余計胸が苦しくて、涙が出そう。私は気持ちを奮い立たせるように首を振った。

「尊さんといても、私はずっと自分がみじめなままです。身分の上下を感じながら、あなたに従って生きていくのは、恋でも愛でもありません」

「よく言う……。上下関係を感じているわりには、立派に逃げ出したじゃないか。本当は俺に従う気がないのは最初から変わっていないな」

尊さんの声音は焦っているように聞こえた。彼はまだ、私を諦める気がないのかもしれない。
最後通牒として私は言う。

「無理です。借金は一生かかってでも返しますから、もう解放してください」

再び頭を下げた私の頭上でかすかに息を詰める気配がした。おそるおそる顔を持ち上げると、そこには黙りこくっている尊さん。顔色は暗く、私を見る目は頼りなく揺れている。

すっかり人気のなくなったホームで私たちは立ち尽くしていた。横にはまだ特急が停まっている。

しばしの無言の後、ようやく尊さんが唇を開いた。

「……強引なやり口を取って悪かった……。だが、タマを幸せにするのは俺だ。それは他の誰にも譲れない」

「私を幸せにするのは私自身です」

厳然と言い切る。
どんなにあなたのことを好きになり始めていても、私はあなたの付属物としては生きられない。
無理なの。やっぱり住む世界が違い過ぎた。
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